1994年から1998年にかけて、私は大学生でした。
当時、インターネットが言われ始め、パソコンを買って(初パソコンはMac〈Macintosh〉でした。世間はWindows95全盛期)プロバイダーと契約して、苦労してインターネットに繋いだことを覚えています。
今のように、契約さえすればすぐ繋がる、という時代ではありませんでした。
分からないことがあるたびに、プロバイダーへ問い合わせながら、少しずつ環境を整えていきました。
あの頃、インターネットという言葉には、独特の熱気がありました。
「これからはインターネットの時代だ」「インターネットを使えば、仕事のやり方が変わる」。
そんな言葉を、あちこちで耳にした記憶があります。
「インターネットを使えば仕事ができる」という売り文句
それから30年が経ちました。
今、街でもニュースでも、こんな言葉をよく見聞きします。
「AI を使えば、仕事ができる」「AI を導入すれば、業績が伸びる」。
正直に言うと、この構図に既視感があります。
かつて「インターネットを使えば仕事ができる」と言われていたのと、驚くほど似ているからです。
道具の名前が、インターネットから AI に変わっただけで、語られている中身はほとんど同じだと感じています。
道具は、成果を保証してくれない
ですが、当時を振り返ってみると、インターネットに繋いだだけで、仕事の成果が出た人はいませんでした。
ホームページを持っただけで、お客様が増えるわけでもありませんでした。
メールが使えるようになっただけで、事業が伸びるわけでもありませんでした。
インターネットは、あくまで「速く」「広く」「深く」情報をやり取りするための手段です。
その手段を何のために使うか、という目的がなければ、成果にはつながりません。
むしろ逆で、成果を出している人が、たまたまその道具を使っていた
インターネットで起きたこと
ここで、もう一度、当時のことを思い出してみます。
インターネットの黎明期、成果を出していた人たちに共通していたのは、「インターネットが使えること」ではありませんでした。
すでに「やりたいこと」「解決したい課題」を持っていて、その手段としてインターネットを使っていた、という順番だったように思います。
1997年5月1日、楽天市場が開設されました。
前身となる株式会社エム・ディー・エムの設立から3か月足らず、創業メンバーはわずか6人からのスタートでした。
三木谷氏が掲げていたのは、「システムに強い人間が商売をする」ことではなく、「商売が得意な人が、簡単に店を開ける仕組みを創る」という理念でした。
売り手にはシステムやトラフィック、ノウハウを提供し、消費者には実際の市場(いちば)のような「発見する楽しさ」を届ける、というコンセプトです。
インターネットを使いこなせること自体が目的だったのではなく、「商売が得意な人が、簡単に店を開けるようにする」という目的が先にあり、その手段としてインターネットがあった、という順番です。
この理念が先にあったからこそ、楽天は今の規模まで成長しました。
2000年代前半、個人のホームページからブログへと移り変わっていった時期にも、同じことが起きていました。
象徴的だったのが、「ブログの女王」と呼ばれた眞鍋かをりさんです。
2004年、ニフティの「ココログ」で始めたブログは翌年に書籍化され、ベストセラーになりました。
当時、HTML が書ける人はいくらでもいました。
けれど眞鍋さんが使っていたのは、誰でも登録できる無料のブログサービスです。
技術で差がついたのではありませんでした。
何を書くかを持っていたかどうかで、差がついていたのだと思います。
そして今、同じことが AI で起きています
i.tes+ でも、似たようなことを実感しています。
今、社内では自分で作ったツールを使っています。
タスク管理、授業管理、請求書管理、SNS 分析をまとめたダッシュボードと、ホームページの診断ツールです。

これは「AI で何か作ってみよう」と思って始めたものではありません。
きっかけは、請求書を送ったあとの入金確認を、うっかり忘れてしまうことがあったからです(笑)。
今は送付日からの経過日数が自動で色分けされて出るので、放置してしまっている請求書に自分で気づけます。
作る過程では、AI にずいぶん助けてもらいました。
ただ、何を作るかを決めたのは AI ではありません。
毎月どこで手間取っているかを知っているのは、自分だけだからです。
このように振り返ってみると、次のようにまとめられるように思います。
懐疑論はいつの時代もある
1995年にも、今の AI ブームとよく似た空気がありました。
同じ年の8月9日、Netscape が株式を公開し、公開初日で時価総額が20億ドルを超えました。
これは「Netscape モーメント」と呼ばれ、インターネットが社会やビジネスの表舞台に出た出来事として、今も語り継がれています。
一方で、当時から懐疑論もありました。
天文学者のクリフォード・ストール氏は、1995年2月27日の Newsweek 誌に「The Internet? Bah!」という記事を寄稿し、インターネットが新聞や日常のコミュニケーションに取って代わることはない、と予測しました。
その予測の多くは外れ、本人も後年、数ある失敗の中でも特に大きく話題になった失敗だったと振り返っています。
今の AI にも、同じような懐疑論を耳にすることがあります。
そして正直に言えば、その指摘が当たっている部分もあります。
AI は正しいことも多いのですが、たまに嘘をつきます。
しかも、平気な顔で嘘をつく(笑)。
ハルシネーションと呼ばれる現象です。
なので、最後はちゃんと人間が確認したほうがいいと思っています。
この記事に書いた数字や出来事も、ちゃんと確認はしています。
出典は記事の最後にまとめてあります。
数字で見る、AI が広がるスピード
ですが、数字を見る限り、AI の普及はむしろインターネットより速いペースで進んでいます。
Stanford 大学の AI Index レポートによると、生成 AI は、わずか3年で53%という普及率に到達しました。
これは、パソコンやインターネットが普及した時よりも速いペースだと報告されています。
企業の AI 利用率も、Stanford HAI の調査では、2023年に55%、2024年に78%、2025年には88%まで増えています。
McKinsey の2025年の調査では、約3分の1の企業が、全社規模での展開を始めた段階に入った、と報告されています。
ただし、完全に展開まで終えている企業は、まだ7%にとどまっているそうです。
AI の進歩を、人の成長と重ねてみると、この違いがよりはっきりします。
人の成長は、努力を重ねても基本的には一直線に近い伸び方をします。
一方で AI の進歩は、指数関数的な伸び方をすると言われています。
最初のうちは差が目立ちませんが、ある地点から一気に開いていくタイプの伸び方です。
人が一人で頑張るだけでは、この差は開いていく一方です。
ただ、追いつくことを諦める必要はないと思っています。
AI をうまく使いこなせば、自分の伸び方そのものが変わります。
勝つのではなく、手伝ってもらいながら、限りなく近づいていく。
そのほうが、ずっと現実的です。

実際、身近なところでも、AI の浸透を感じる出来事がありました。
先日、家の中で演奏している動画から人物を切り抜いて、海外の景色と合成する動画を編集する機会がありました。
使ったのは Adobe Premiere の「オブジェクトマスクツール」という機能です。
(このソフトは2025年10月に、Premiere Pro から Adobe Premiere へ名称が変わりました)
3年前にも似たような編集をしたことがありますが、当時はペンツールで手動でマスクを作り、「マスクトラッキング」機能で自動追尾させる方法でした。
ただ、動きが大きいと追従がうまくいかず、結局1コマずつ手作業で調整することになり、あまりの手間に、最終的には丸い形で簡易的に切り抜いて済ませた記憶があります。
今回使ったオブジェクトマスクツールは、2026年1月に登場したばかりの新しい機能で、人物の輪郭を自動で認識してくれるため、精度がまったく別物でした。
AI というと、ChatGPT や Claude のような、対話するタイプのツールを思い浮かべがちです。
ですが実際には、普段から使っているソフト(アプリ)そのものに、AI がいつの間にか組み込まれているケースも増えています。
こうした数字を見ていると、AI は一部の人だけが使う特別な道具ではなく、少しずつ社会の前提そのものになりつつある段階に入っているように感じます。
インターネットも、最初は「使いこなせる人がすごい」と言われる時代がありました。
今では、使っていない方がむしろ不自然です。
電気・ガス・水道も、もとをたどれば同じ道をたどってきました。
最初は限られた人しか使えない、特別なものでした。
それが少しずつ生活の前提になり、今では「使っている」ことをわざわざ意識する人はいません。
AI も、いずれ同じ場所に向かっていくのではないかと、私は考えています。
まず、使うところから始めましょう
「AI を使ってみたけれど、正直何も変わらなかった」「そもそも、何から始めればいいのか分からない」。
そう感じている方も、少なくないのではないかと思います。
ここまで振り返ってみて、あらためて思うのは、インターネットも AI も、それ自体が成果を運んできてくれるわけではない、ということです。
道具を手にしただけで、何かが自動的に変わるわけではありません。
それでも、成果を出す人たちは、いつの時代も、その時々の新しい道具を使ってきました。
だとすれば、私たちがすべきことは、それほど難しくないのかもしれません。
まず、使ってみることです。
使いながら、自分たちが本当に楽にしたいこと、伸ばしたいことを見つけていくことです。
i.tes+ では、こうした考え方をもとに、AI を実際の仕事にどう取り入れていくかを一緒に考える、新しい講座の準備を進めています。
名前は『本気のAI活用講座』といいます。
「AI を知る」ことより一歩先の、「AI を自分たちの仕事にどう使うか」を、一緒に考えていく講座にしたいと考えています。
本講座の前段として、まずは3つのAI(ChatGPT・Claude・Gemini)に実際に触れてみる、もっと気軽な体験の場も別途ご用意する予定です。
詳細が決まり次第、あらためてこちらのブログでお知らせします。
いち早く情報を受け取りたい方は、公式LINEにご登録いただくこともできます。
https://page.line.me/itesplus?openQrModal=true
もしご興味があれば、今のうちから、身近な AI ツールに少しずつ触れておいていただけたらと思います。
まず、使うところから始めましょう。
参考資料
- 楽天公式「創業秘話」
- ITmedia NEWS「開設から6年 眞鍋かをりさんのブログが閉鎖」
- Stanford HAI「2026 AI Index Report」
- Campus Technology「Stanford 2025 AI Index Reveals Surge in Adoption, Investment and Global Impact」
- McKinsey「The State of AI: Global Survey 2025」
- This Day In Market History「Netscape IPO」
- Newsweek「Clifford Stoll Said the Internet Would Die in 1995」
- Adobe「New AI-powered video editing tools in Premiere」(2026年1月20日)

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